小さなころから細かい手作業が好きで、デザインの専門学校ではパタンナーコースを専攻しました。卒業後は7~21号までの幅広いサイズを扱うメーカーに入社し、まずはサンプルの縫製や裁断を担うポジションを経験。パタンナーとしての仕事をする前に、こうした別の工程を知れたことは、多くの学びになりました。たとえば、裁断はただ生地をカットすればいいわけではありません。託されたパターンをできるだけ短い生地でとりきることが、原価を抑えることに直接影響してきます。裁断の腕いかんで、同じ長さの布からつくれる服の枚数やコストが変わるのです。だからこそ面白く、そして難しい仕事でした。
その会社でしばらくパタンナーを務めたあと、34歳のときにバスコへ転職。曲がりなりにもアパレル業界に13年間いたというのに、バスコの現場は衝撃の連続でした。社長の感性によってデザインされるお洋服には、教科書どおりのパターンがまったく通用しなかったのです。デザイン画を見ながら「このラインはこの作り方でいいのか?」「こんなシルエット、どうやってつくるの?」と悩み、最初の半年間は先輩に毎回チェックしてもらいながら、なんとか作業を進めていきました。いまでこそ珍しくはないけれど、当時は生地を切りっぱなしにしたお洋服ですら、ほとんどなかった時代です。バスコの品を扱う百貨店で、驚いた販売員さんが「布が切りっぱなしになっているけれど、これは販売してよいものなんですか?」と確認してきたこともありました。
そんな型破りな洋服をつくることは、パタンナーにとって大きなやりがいが感じられる仕事でもあります。社長に「これは縫製上できません」と言っても「できるようにしてください」と言われてしまうから、自分でやり方を考えるしかない。ときには実際の布を使ってミニチュアを作り、工場と一緒に作り方まで検討します。美容師さんに同じ写真を見せて「この髪型にしてください」と言っても、腕によって仕上がりが違ったりしますよね。それと同じで、同じ材料を使って同じ服をつくっても、パタンナーによって仕上がりは変わります。だからこそ、自分らしく仕事を遂行していく快感があるんです。
Interview
デザインの意図を汲み取り、ベストを探り続ける。
パタンナーのこだわりが、
仕上がりを変えるから。
企画 パターン長 / 中島 朋子
どんなデザインも、プロとして形にしていく
意見をかわしあい、こだわり抜いた商品を、お客様の元へ
デザイナーの意図をいかに汲み取るかは、パタンナーの腕の見せどころ。手を動かす前にはかならずデザイナーにヒアリングし、「ここのラインはこう縫うのがいいと思う」「この身頃にこの襟は合わないかもしれません」などと自分なりの提案を織り交ぜながら、詳細を詰めていきます。社長と距離がとても近いうえ、日ごろから「あなたはどう思う?」と聞いてくれるので、私の意見が取り入れられることもしばしば。自分の想いが洋服に反映されるのは、とても面白いですね。パターンチームも仲が良く、お互いの担当する洋服に対してアイディアを出しあっており、みんなでよいものをつくっていく意識が強いです。こうした団結力はバスコらしさのひとつであり、だからこそ商品全体にまとまりが出ているようにも思います。
続く制作の工程では、何度も何度もやり直しが発生します。「裾をあと2mm切りたい」なんて細かな調整も当たり前。一度サンプルができたあとでも、納得がいくまでデザイン修正や生地変更を繰り返し、商品化まで進めていくのです。ただ、バスコで一度サンプルをつくり始めたものは、お客様の手元に届けるまでやり抜くのが基本。途中でボツになることはめったにありません。でも、かならず完成させると決めているからこそ、最後の最後までトライ・アンド・エラーを積み重ねていけます。こうしてデザインを研ぎ澄ましていったことで、時代を超えてお客様に着ていただける定番がいくつも生まれました。それでも常にそのときどきのベストを求めているから、微調整や検討は終わらないのです。
15年働いてきて、いまが一番やりがいを感じている
2022年からは、美しい黒にこだわったシリーズ「クロニクル」で、全アイテムのパターンを任せてもらっています。これまではチーム全員で、手分けしながら全ブランドのパターンを引いていたのですが、それぞれのブランドで違いを際立たせるため、専任者をつくっていこうと決めました。
アパレル業界にはプチプラの波も来ているけれど、バスコとしては、クロニクルでより質の高いアパレルを追求したい。とくに縫製をグレードアップして、ワンランク上のブランドにしていきたいと考えています。縫製をどのようにブラッシュアップしていくかは、私次第。そこで、これまでシンプルにロックミシンで始末していた縫い代を、くるんで仕上げるパイピング仕様へと、部分的に切り替えました。もちろん手間はぐっと増えるけれど、丁寧な仕立ての価値を感じさせてくれる仕様です。前職の縫製経験なども活かしながら、自分の腕を存分にふるえていて……バスコで働いてきて、いまが一番やりがいを感じています。クロニクルにはいま定番が10デザインほどありますが、今後、アイテムを充実させていくのも楽しみです。
こうして各ブランドの個性を磨き、ファンを増やしていくことが、バスコをより多くの方に知っていただく未来につながっていくでしょう。そのために私たちパタンナーは、これまで以上にそれぞれのデザインをよく理解しながら、丁寧に手を動かしていかなければなりません。営業や店舗のメンバーとの距離も近いので、どんな思いでこの洋服をつくったか、どんな物語があったかを自分たちの外側に伝えていくことにも、力を入れていきたいと思っています。